日本プロダクトを米国で売るには
(スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
米国に移住して8年が経った。日本の化粧品や雑貨を海外転送サービスを使ったりしながら取り寄せているが、もっと米国で気軽に買えるようになれば良いのに思う。日本のプロダクトを米国で流通させるのはどんな困難があるのだろうか? 米国で日本のプロダクトを広める3人の起業家に「日本と米国のギャップ」について話を聞いた。
1人目はラーメンD2C「Ramen Hero」を運営する長谷川浩之氏。2017年にサンフランシスコで創業、現在は米国の48州にラーメンミールキットを届けている。ラーメンは全て自社製造。これまでに2万人にラーメンを届けた。
■「シズル感」が違う
日本と米国ではおいしそうな写真が異なる。日本ではラーメンは汁と麺が強調されるが、米国ではトッピングも含めボリューム感が重要視される。写真の発色を良くし、楽しさ、大胆さを出す。長谷川氏はフードフォトグラファーやフードスタイリストから食べ物の見せ方についてアドバイスを受けている。筆者は米国に8年も住んでいるのに、「おいしそう」が異なるとは気づかなかった。
2人目はダニー・タン氏。日本のお菓子を取り扱うサブスクリプションサービス「Bokksu」を運営。毎月20個ほどのお菓子とお茶を詰めたBoxをユーザーに届けている。ダニー氏は5年間日本で過ごした経験がある米国人。日本で経験したギャップがサービスにもいきているという。
■日本の慣習が共有されていない
「和菓子を食べる時は、お茶を飲む」など、日本人にとっての当たり前の行為・慣習が米国人には共有されていない。そのためBokksuはお菓子に加えてカルチャーガイドという冊子を一緒に届けている。そのお菓子は日本ではどんなシチュエーションで食べられているのか、どうやって食べるのか、甘いのか、しょっぱいのか、といったことが書いてあり、日本文化を理解しながら楽しめるようになっている。
3人目は髙橋クロエ氏。日本の化粧品を米国で広めるべく「Cosme Hunt」というJ-Beauty通販サイトを運営している。日本のメーカーから商品を仕入れており、サイトには日本のドラッグストアで見かけるようななじみの商品が並ぶ。米国とカナダに商品を届けている。
■米国は多様性が重要視される
LGBTQはもちろんのこと、人種や国籍など問わず、広く全ての人にサービスを提供していく必要がある。しかしながら日本の化粧品の場合、日本人の肌色がベースになっているため、黒人や白人には合わない場合がある。米国で日本人のみに向けたサービスを提供すると「日本人以外を無視している」と思われてしまう恐れがある。パッケージデザインなども含め工夫が必要だ。
3人とも、米国でのマーケティングやブランディングのローカライズにおける、バランスの重要さを説いていた。今回3人に話を聞いて、私自身が無意識のうちに日本人の常識にとらわれていることに気づいた。米国人スタッフやカスタマーの声、その分野の専門家の声を聞くことの重要性を改めて感じた。
[日経MJ2022年3月25日付]