新たな与信の仕組み データ分析の深化で多様に
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
信用とは何によって担保されるのだろうか? 日本からの移民である私は米国でクレジットカードを初めて作る際、クレジットカードやローンの利用履歴がなかったため、最初は上限が300ドルのクレジットカードしか作ることができなかった。しかし最近は新たな与信方法でクレジットカードを作ったり、ローンを組んだりができるようになっている。
学歴
新たな与信基準の先駆けともいえるのがSoFi(ソーファイ)だ。今年、特別買収目的会社(SPAC)を通じ、ナスダック上場を果たした。
大学の学費が高騰する米国では、学生ローンの返済に卒業後も苦しめられる人が増えており、社会問題化している。SoFiは、高収入の職業に就く可能性が高く返済が滞るリスクは低いとして、高学歴の学生向けに低金利で貸し付けを行うソーシャルレンディングの仕組みを開発した。
現在は投資や保険、住宅ローンやクレジットカードなど幅広く金融サービスを提供する企業に成長した。ただ、成長のきっかけとなったのはこの新たな与信方法によるものといえる。
ファンとのエンゲージメント
今年シリーズAで2600万ドルを調達したKarat(カラット)は、クリエーター向けのコーポレートカードを提供する。ユーチューバーやeスポーツのライブストリーマーといったインフルエンサーを対象とし、ソーシャルメディアのフォロワー数やエンゲージメント数、ユーチューブの広告収入など、独自の基準で審査を行う。
数百万というフォロワーを持つクリエーターであっても、多くは会社としてのクレジットカードローンを組むことができない。前例がない職業には既存の金融機関は対応してくれないのだ。
カラットへの投資家の中には有名ユーチューバーも名を連ねており、実際のインフルエンサーが必要としているサービスであるということがうかがえる。
キャッシュフロー
最近は銀行口座の入出金や消費行動といったあらゆる情報がデータ化されている。このデータを活用し毎月の収入、支出、そして預金額などのキャッシュフローを分析した独自の「キャッシュスコア」を与信として用いているのが、Petal(ペタル)だ。
まさに私のようなクレジットスコアを持たない移民にとってありがたいサービスで、銀行のオンラインアカウントを連携すれば、その場で審査結果が表示される。昨年9月にシリーズCで5500万ドルを調達するなど非常にアクティブにサービスを拡大している。
このほかにも、現在と将来の収入に基づいて利用限度額が設定されるクレジットカード「X1 Card」、仕事のオファーレターがあれば給与額の25%を前もって借りることができるサービス「ThriveCash」といったものもある。
学歴、職業、ソーシャルメディア、キャッシュフローなどが信用の元データになるならば、まだまだ他の情報が採用される可能性もありそうだ。今後も増え続ける個人にまつわるデータにより、信用だけでなく様々な「指標」「基準」に新たな影響がありそうだ。
[日経MJ2021年8月6日付]