米国の終活スタートアップ エンディングノート、きめ細かく
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
身近な人の死、自分自身の死、パンデミックを経て死生観が大きく変わった人もいるのではないか。死はタブー視されがちな話題だが、米国ではそこに挑戦しているスタートアップがある。
それが、終活サービスを運営するCakeだ。ネット上でエンディングノートを無料作成できるサービスを提供している。利用者は自分が受けたい医療措置、法的・経済的な決定、葬式のプラン、自分自身が死後どのように記憶されたいかなどを、シンプルなユーザーインターフェースを通して登録できる。
エンディングノートを作成するにも、どこから手をつけて良いかわからないもの。このサービスは、「死」という大きすぎるテーマを、かなり細かな設問にして、質問してくれる。
葬式であれば、どこでしたいか(葬儀場、家、好きなバー、外など)や、儀式中に大事にしたいもの(儀式、音楽、食事、朗読など)を聞いてくる。デジタルというカテゴリでは、死後メールアドレスをどうするか、写真や電子ファイルはどうしたいかといった質問や、ソーシャルメディアの扱いについても質問がある。緩和ケアの医師、ソーシャルワーカー、ファイナンシャルプランナー、相続弁護士、葬儀プランナーといった専門家と密に連携。多くの難しいテーマを分解し、シンプルに一言で答えられる設問にしているそうだ。
回答欄の横には、複数の回答例や困った際に読む記事リンクも設置し、回答しやすくなる工夫が随所に見られる。記事の数は3000件を超え、終活に関連する疑問に事細かに答えてくれる。
この3000件を超える記事が、ユーザーの入り口にもなっている。終活に関連するあらゆるキーワードでCakeの記事がヒットする。
エンディングノートを作成しても、そのままでは意味がない。私も早速夫に共有した。親しい友人など複数人に共有することもできる。エンディングノートを受け取った人が「自分も作ってみようか」と思う流れもあるだろう。終活関連の話題を話し合うフォーラムや、遺言状などのドキュメントを安全な状態で保存できるストレージサービスも用意されている。
興味深いのがビジネスモデルだ。金融や法律、保険老人ホーム、葬儀屋など関連するサービスへ誘導するアフィリエイト・広告モデルに加え、「ホワイトレーベル」の手法でも収益を上げている。企業が自社の顧客に対し、Cakeと同様のサービスを提供できる仕組みだ。資産運用を手掛ける銀行や保険会社などが導入している。
またユーザーに直接課金するサブスクモデルも開始した。年間96ドル払うことで、ストレージ容量が大きくなるほか、様々な分野の専門家に1対1で相談できる。
私からいきなりエンディングノートが送られてきた夫はギョッとしたようだが、死ぬ間際に「あれを伝えてなかった……」など心配しながら死ぬこともなく、これは自分の未来への準備として良い行為だと感じた。「死」について考えることは、どう「生きる」かを考えることにもなる。
米国も日本も高齢化が進んでいる。万が一の際にも対処できるよう備えておけるサービスは非常に有意義だと感じだ。
[日経MJ2021年7月9日付]