つけ麺の中野大勝軒 米国奮闘記 IT活用、コロナ禍乗り切る
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
つけ麺で知られる「中野大勝軒」。その3代目の坂口善洋さんが、2019年に米国1号店「Taishoken San Mateo」(大勝軒サンマテオ店)をオープンした。日本の人気商品をいかにして米国で広めていくのか。店づくりや味付けといった日米の違い、オンラインの活用などについて聞いた。
店づくり
大勝軒サンマテオ店は広々とした店内で総席数は70席。米国ではラーメンだけでなく食事全般、店の雰囲気や友人との会話など、トータルのエクスペリエンスが求められるという。ラーメン店ではなく、レストランなのだ。大勝軒サンマテオ店でもアペタイザー(前菜)や酒、デザートといったメニューも用意している。インテリアにもこだわり、和食として楽しめる空間を準備している。
味付け
スープの味付けも大きく異なる。米国ではインパクトが強いはっきりした味が好まれる。日本の大勝軒は魚介スープだが、米国では豚骨スープをベースにしている。
ヴィーガン対応も欠かせない。注文割合は5%程度だが、対応を行わないと、ヴィーガンの人がいるグループをまるまる逃してしまう。引き続きヴィーガンメニューの開発は行っていくそうだ。
人材教育
スタッフの教育も一筋縄ではいかない。移民が多く、英語を話せないスタッフもいるという。グーグル翻訳を使ってコミュニケーションをしたり、何回も失敗をして学んできたと話す。万国共通の「数字」を使うよう意識したり、盛り付けなどは完成の写真を撮って張り出したり。本当に大変そうだ。
行列の不満解消
開店当初、地元の有名グルメメディアで紹介され、2時間待ちの行列ができた。うれしい半面、待ち時間が長いことへの不満も寄せられた。
そこで、飲食店の口コミサイト「Yelp(イェルプ)」のウエイトリストシステムを導入した。店から10マイル(約16キロメートル)以内にいる人は、誰でもウエイトリストに名前が登録できる。席が空きそうになったら15分以内に店舗に来るようメッセージを送る。こうすることで、不満が来ることもなくなったという。
コロナ禍では注文や支払時に、人やタッチデバイスとの接触に懸念を示す人が増えた。そのため、テーブルに設置したQRコードを来店客がスマホでスキャンすれば、注文や支払いができる仕組みを導入した。注文を間違えることもなく、フロア人員を減らすことにもつながった。
文化の違いを超えて
米国ならではのカルチャーに驚いたこともある。返品文化だ。ほぼ食べ終わった状態で「好みの味ではないので返品したい」といったことがまれにあるという。最初は面食らったという坂口さんだが、米国生活が長くなるにつれ、文化の違いや対応についても、だいぶ慣れてきたそうだ。
ラーメンは米国でも認知度が高まっているが、つけ麺はまだまだ認知度が低い。最初のころは、つけ汁を麺にドバッと入れたり、食べ方がわからない人も多く、メニューにイラスト入りで食べ方の説明を追加した。キッチンからお客さんが食べる姿を見るのが、何よりの喜びという坂口さん、日本独自の文化を広げるため日々奮闘している。
[日経MJ2021年5月14日付]