高級ブランドもAR試着 気軽に体験、消費意欲も刺激
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
ここ1年でほぼ全ての買い物がオンラインに移行した。生鮮食料品の一部は直接スーパーに行くこともあるが、服や靴など食品以外は全てオンラインだ。入場人数を制限した上で営業している店舗もあるが、この状況では店舗でじっくり服や靴を見ようという気にはなれない。店舗の役割は買い物をする場所ではなく、買ったものを引き取りに行く場所、または返品しに行く場所になりつつある。
あたり前だがオンラインで購入する際には試着ができない。もどかしさを感じる。コロナ以前の調査によると、店舗での買い物客の79%が購入前に商品を試しており、55%が、物を見て、触って、試すことが、オンラインではなく店舗で買い物をする際に「最も重要な」要因と回答した。
返品を無料とし、家での試着を促す流れが主流だが、ARを活用したオンライン試着に取り組むサイトもある。企業にとっては物理的にものが移動するより、低コストで試着を促すことができる。このAR試着を実際に試してみると、非常に興味深かった。
アクセサリーを販売するケンドラ・スコットのサイトではAR試着できる。全ての商品ではないが、一部のピアスなどで試すことができた。写真だけではわかりにくい、つけた時のサイズ感がわかる。
化粧品メーカーのアルタ・ビューティーは、アプリ経由で化粧品をARで試せる。口紅が中心だが、実際に色が唇にのると面白くなって試してしまう。いつもは試さないような色も思わず試してしまうのはARの力。D2CスニーカーのオールバーズのAR試着も、思わず様々な色のスニーカーを試してしまった。
グッチもスニーカーや時計をAR試着できるアプリを出している。普段高級ブランドを購入することはほぼないので、全く興味がないと思っていたが、実際にAR試着してみると気持ちが高まった。普段履くことのない高級ブランドの靴を、ARとはいえ試着できたのだ。なんだかとても似合っている気もする。
試してみる前はなんとなく写真で事足りるような気がしていたが、ARには写真や動画とは異なる良さがあると感じた。オックスフォードとニューサウスウェールズ大学の研究によると、2Dの画像よりも、ARのような3DCGの方が物欲が刺激されやすいとの研究結果もあるという。
パネラという米国のベーカリーカフェがフェイスブックとスナップチャットにカフェのメニューを表示するAR広告を出稿した。カメラのARフィルターで同社のスープやサラダ、朝食メニューを好きな場所に配置することができるというシンプルなものだ。それだけなのに、フェイスブックでARを体験し、リンクをクリックした人の来店率はなんと25%だったという。ARによって食欲を刺激された事例といえるだろう。
ARが物欲を刺激する可能性があるのであれば、試着は非常に効果的で、AR広告も今後さらに活用されていく可能性が高い。ARに対しては未来的なイメージをもっていたが、スマホやパソコンのカメラを介して、昨今は非常に身近な存在となっている。2021年はARを活用したブランド体験に注目したい。
[日経MJ2021年1月22日付]