ポッドキャストの市場拡大 独自番組が続々、買収も活発に
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
スマートフォンを使い始めて10年以上がたち、すっかり「ながら依存症」になってしまった。テレビを見ながら気になった内容を検索したり、友人にメッセージを送ったり。そんな私が最近、特に重宝しているのが音声コンテンツの「ポッドキャスト」だ。
運転しながら、料理しながら、掃除しながら聞き続ける。目を奪われないので、ながら依存症にはもってこい。米アップルの完全ワイヤレスイヤホン「AirPods Pro(エアーポッズ・プロ)」の存在も「ながらポッドキャスト」を加速している。
このイヤホンは外の音もちゃんと拾い、ほぼそのまま耳に飛び込んで来る。音声コンテンツを聴く聴かないにかかわらず、いつでも装着。そうすると、その都度イヤホンを探して装着する手間がなく、音声コンテンツにアクセスできる。「ながら依存症」はこうした優れたハードの登場で、加速すると感じている。
車社会の米国では運転中にポッドキャストを聞く人が多い。2019年の調査では、米国で約1億4000万人がポッドキャストを聞いたことがあるという結果が出た。
ポッドキャストの市場拡大は企業にとって魅力的だ。音楽プラットフォームのスポティファイは昨年、ポッドキャスト番組制作プロダクションや配信プラットフォームを立て続けに買収した。今年に入り、人気ポッドキャスターのジョー・ローガン氏やキム・カーダシアン氏との独占配信契約を結んだ。最近ではミシェル・オバマ前米大統領夫人のオリジナル番組もスタートした。
ニューヨーク・タイムズは今年、ポッドキャストで「シリアル」という大ヒットドキュメンタリーを制作したプロダクションを買収した。米アマゾン・ドット・コムも「アマゾンミュージック」にポッドキャストを追加する予定だ。アマゾンの公式なポッドキャスト参入により、スマートスピーカーでも気軽に楽しめるようになる。
ポッドキャストというと、トーク番組のイメージがあるが、前述のシリアルのようにドキュメンタリーやドラマコンテンツもある。動画の世界でネットフリックスがけん引役となって独自コンテンツの戦いとなっているが、ポッドキャストも独占配信やプラットフォームごとの、オリジナルコンテンツの戦いとなりそうだ。
ポッドキャスト番組の収益源は主に広告だ。独自番組が増えていけば番組を提供するプラットフォーム側は、視聴者に課金するモデルを多用してくるかもしれない。私自身、毎朝聞いているニュース番組は必要不可欠な存在になっているので、有料化したら確実にお金を払う。ポッドキャストは日常生活に取り入れやすいので、習慣性も高く依存度も高い。
ネットフリックスのような動画を中心としたコンテンツ企業も、ポッドキャストに注目し、オススメの番組を配信している。人気のコンテンツはユーチューブなど動画フォーマットのものが多いが、今後はポッドキャストなど音声フォーマットの需要が高まっていくだろう。私たちは知らず知らずのうちに「ながら依存」になっているのだから。
[日経MJ2020年8月28日付]