進化する「ダイナミックプライシング」 採用分野拡大、変動要素多様に
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
サンフランシスコでは6月中旬から「アウトドアダイニング」という条件付きでレストランで食事ができるようになった。店舗前の歩道や駐車場などに席を設けているが、スペースが限られ、新型コロナウイルス危機前と同等の売り上げを確保するのは難しいだろう。
そんな中、デンバーのあるレストランが席数の限られた状態で適切に売り上げを確保するため、仕組みを大きく見直したことが話題になった。事前予約のみの前払いを必須とし、食事の時間は90分限定で延長はできない。特筆すべきは、曜日や時間帯によって価格が変わる「ダイナミックプライシング」を採用したことだ。
レストランまで価格を変化させる時代が来たかと驚くが、電子商取引(EC)サイトのアマゾン・ドット・コムでは、需給に応じてまさにダイナミックに変動する。例えばベランダに敷くウッドパネル。2月の86ドル(約9200円)から5月には134ドル(約1万4300円)まで跳ね上がった。巣ごもりでベランダを改装した人が増えたのだろう。
こうした価格変動は「ハニー(Honey)」というサービスで確認できる。ハニーでは、欲しい商品の販売価格が設定した価格に下がった時に通知してくれる仕組みもある。
リアルタイムの価格変更は個人の売り手にはハードルが高そうだが、主に中小零細を対象に電子商取引(EC)の構築サービスを手掛けるショッピファイでは、ダイナミックプライシングのオプションを有料で提供している。導入すればユーザーのサイト来訪回数の増加が見込め、売り上げも増えるという。
民泊で物件を貸す人向けに価格変動ツールを提供する、ビヨンド・プライシングという会社もある。民泊で頻繁に価格を変えるのは面倒だが、同社のサービスでダイナミックプライシングにすれば、適切な価格が顧客を呼び、部屋が埋まる可能性も高まる。利用者は売り上げの1%を手数料として同社に払う。
価格は需給に応じてリアルタイムに変わるだけでなく、購入者のエリアによって変わったり、個人の属性によって変わったりするようにもなってきた。例えばディスカウントストア、ターゲットのアプリは、店舗にいる時と家にいる時で価格が異なることがある。来店者のみに表示される割引があるのだ。
ライドシェアのウーバーでは、雨の日など乗車の需要が高まったタイミングで値段が上がる。さらに、利用者の行き先によって金額が変わっているという調査結果がある。ウーバー自体はそのアルゴリズムについて公開していないが、ジョージワシントン大学の調べでは、白人以外の人種が住むエリアや所得が低いエリアで乗客が乗り降りする場合は、通常時より価格が高い傾向があることがわかり、物議を醸している。
ホテルサイトなどでは、英語表示と日本語表示で価格が異なることもある。売り手はこういった仕組みを賢く取り入れていく必要があるが、消費者側もただ漫然と受け入れるのではなく、賢く買い物する必要があると感じている。
[日経MJ2020年7月3日付]