ホテルを家に 空き室シェア 日本人起業、料金3分の1
奔流eビジネス (スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜氏)
日本でも「民泊」という言葉とともに大きく普及しはじめているエアビーアンドビー。筆者が住むサンフランシスコには、エアビーの逆でホテルを家にできるというサービス「エニープレイス」がある。このサービスは、日本人起業家の内藤聡さんが立ち上げたものだ。米国の有名投資家からも投資を受け、順調に利用者数を伸ばしている。
現在はサンフランシスコとロサンゼルスでサービスを提供中。近くニューヨークでもサービスを開始する。ホテルごとに異なるが、30~32日が最短の契約期間で、1カ月単位で契約できる。
利用者側のメリットはシンプルだ。長く滞在することで、安く宿泊することができる。例えばサンフランシスコのダウンタウン近辺のホテルは、エニープレイスなら月1600ドルで借りることができる。このホテル、通常の宿泊料金は1泊160ドルほど。普通に1カ月宿泊したら4800ドルである。エニープレイスなら3分の1の料金で滞在できるのだ。ちなみにサンフラシスコ市内のワンルームアパートの相場は3000ドルほど。賃貸として考えても1600ドルは破格である。
住むために必要な家具、Wi-Fiなどの設備はもちろん備わっている。かつルームクリーニングも週1回程度用意されているところが多い。ホテルによっては朝食付きの場合もある。
エニープレイスの利用者は、長期出張や引っ越しの合間の時期など、一時的な住居として利用している層が7割。そして残り3割は新しいライフスタイルとして、ホテルを家として暮らしているという。
エアビーの台頭により、空室が増えたり、価格競争にさらされていたりするホテルも多い。そんな中、ホテルは全体の1~2割の客室をエニープレイスに提供することで、繁閑に左右されず、安定した収入を得ることができる。エニープレイスが事前に利用者の身元確認をしている。不審者に利用される心配もなく、ホテルにも喜ばれているそうだ。
もちろんホテルなので、キッチンがない、ランドリーがないなど不便な点もある。しかしながらサンフランシスコには、オンデマンドのレストランデリバリー、クリーニング、そしてカーシェアなどのサービスが充実している。将来的にはシェアサービスなどとの提携も検討しているという。
このサービスは、創業者の内藤さん自身が米国で賃貸物件を借りる際の苦労がきっかけとなっている。通常米国では賃貸の契約期間は1年間、早期退去の場合には違約金が発生する。また万国共通で引っ越しは家具の移動、ユーティリティーのセットアップなど手間がかかる。そして過去のクレジットヒストリーがない移民にとってはさらにハードルが高い。
もっと柔軟な契約期間で簡単に引っ越せる方法はないものか? もっと住むこと自体をフレキシブルにできないだろうか?――。こうした悩みから、ホテルに住むことを発想。エアビーなどにより、ホテルに空室が生まれているのであれば、それを安く貸してもらえるのではないかと思いついたという。
エニープレイスは、所有しない時代の時流に乗ったサービスでもある。サンフランシスコだけでなく、世界的なシェアリングエコノミーの流れとともに、大きな可能性を秘めたサービスではないだろうか。起業家が同じ日本人ということもあり応援したい。日本からの長期出張の方にもぜひ利用していただきたい。ちなみに内藤さんもエニープレイスでホテル住まいだそうだ。
[日経MJ2018年4月27日付]