顧客招く「返品ウエルカム」 購入機会を増やす
スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜
米国でインターネット通販を利用しているなかで、日本に住んでいた頃より明らかに返品の頻度が上がっている。想定していたものと異なる商品が届くなど、店側に原因があることもあるが、自分自身がかなり柔軟に返品するようになった。
日本の通販サイトは「いかに返品を減らすか」に取り組んでいるイメージがあるが、米国の場合は「いかに返品しやすくして、注文を増やすか。まずは手にとってもらうか」という方向に進んでいるように思う。「返品ウエルカム」な姿勢だ。返品は買い物の流れの一部として組み込まれている。アマゾン・ドット・コムによるスーパーマーケットのホールフーズ買収の際もニュースのなかに「アマゾンは全米に450(店)もの返品カウンターを獲得した」という表現もあった。
米国ではネット通販で購入された商品の約3分の1が返品されているのに対し、日本は3.5%という。遠慮がちな日本人の国民性もあるとは思うが、米国の返品のしやすさが数字を押し上げている面もありそうだ。
米国の返品は非常に簡単だ。返品用ラベルが同封されていることもあるが、主なサービスはネットで簡単にラベルを印刷できるようになっている。そのラベルを貼り付けてポストに投函するだけ。米国のポストは小包ならば投函可能なサイズで、郵便局に行く必要がない。約50%のネット通販事業者が返品送料無料で受け付けているという。
利用者にとってはありがたい限りだが、通販サイトの事業者側からすればコスト高となる。そんな事業者を支援するスタートアップのサービスも台頭してきた。
「ハッピーリターンズ」はその1つ。全米に40カ所のカウンターがあり、そこで事業者に代わって顧客から直接返品を受け取るサービスだ。事業者は顧客が返品できる環境を用意しつつ、郵送による返品よりもコストを抑えることができる。
現在ウエストフィールドやサイモンなどのショッピングモールにカウンターを広げている。そういった施設に消費者を誘導する側面もある。
UPSの調べによると約70%の人が返品で訪れた道すがら、別の買い物をするという。確かに返品した後はお金が戻ってきて懐が少し潤った気持ちになる。施設側がネット通販事業者の返品カウンターを受け入れるメリットにもなる。全米でデパートメントストアを展開するコールズもこの点に着目し、最近シカゴ、ロサンゼルスエリアの店舗でアマゾン用の返品窓口を設置し始めた。
「返品ウエルカム」な例として、実際に使った後でも返品可能な事例もよく見かける。マットレス通販のキャスパーは100日間実際に寝てみることができる。トランク通販のアウェイは100日間実際に使って旅行することができる。
筆者が先日試したのは、ランジェリー通販のサードラブ。購入前にブラジャーを試着できるプログラムを設けている。3ドルの送料がかかるが、30日間好きなだけ試着できる。洗濯もOKだ。
ワイヤの締め付けなど、下着の付け心地は1度試しただけではわからないこともあるので、プログラムはとてもありがたい。結果サードラブでは2週間ほど試着して返品し、サイズ違いのものと交換してもらい、そちらを購入した。
今後筆者が継続顧客になれば、1着目のお試し分についてはいずれ回収できるのだろう。新規顧客の獲得コストとしてはそれほど悪くないのかもしれない。筆者は今後サードラブでサイズ選びで迷うことはないし、購入のハードルがぐんと下がった。またこの試着を通じて、単発の購入ではなく長期的な取引を丁寧に作ろうとしている企業側の姿勢に好感をもった。
実物に手に取ってみるというのは、当たり前だが購買の意思決定時に大きな決め手になる。ネット通販で返品を簡単にするアプローチはこれからも増えると感じた。
[日経MJ2017年10月20日付]