直販大本命「D2C」、広告から販売までネット総動員
(三浦茜)
Eコマースというと、リアル店舗やブランドが販路拡大のためインターネットでも商品を販売する、というイメージが強いのではないだろうか。
米国では店舗ではなくEコマースからスタートする「D2C」と呼ばれる新たなモデルが盛り上がりを見せている。Direct to Consumerの略で、ブランドづくり、商品の企画、プロモーション、そして販売まで全て1社で担うモデルだ。
筆者は先日、このD2Cブランドの中でも急成長中のトランク店、AWAY(アウェイ)の商品を購入した。これまで実店舗とネットでは、ネットの方が販売のハードルが高いと思っていた。しかし今回、ネットの方が物が売りやすい時代になりつつあると感じる体験になった。
アウェイは2015年創業の非常に若い会社だが、16年の売り上げは1000万ドルを超える注目のスタートアップだ。商品はトランクのみ。種類は機内持ち込みサイズ2つと、さらに大きいものが2つの計4つ。
こういった単一商品ブランドの場合、従来であれば量販店に卸して販売するだろう。しかしアウェイはEコマースで直接販売することでマージンを抑え、高品質なトランクを顧客に低価格で提供する方法を選んだ。
価格は300ドル以下なのに、一生涯保証が付いている。購入できるのはネットとニューヨークにあるコンセプトストアのみ。90%がネット経由の売り上げだという。
このトランクを知ったのは友人の口コミだった。機能面でも優れていて安価でセレブ愛用のトランクがあるという。早速その場でサイトを見てみた。家に帰って検討しようと一度は閉じたが、その日からアウェイの広告が追いかけてきた。
フェイスブック広告やグーグルのリターゲティング広告などで、さりげなくアウェイが目に入ってくる。この手の広告は煩わしいこともあるが、買おうか迷っている時には役立つ。思わずサイトにアクセスしてまた迷う、そしてまた追いかけられる。これを繰り返し最終的には購入に至った。
とはいえ購入する際は実際に重さや大きさを見たいもの。そこで見たのはユーチューブだった。たくさんのユーチューバーがアウェイの開封動画やパッキングの様子を公開している。実際のサイズ感や利用者の感想を確認でき、写真よりずっと情報が多い。私もこれでサイズと色を決めた。
またアウェイは「100日トライアル」を全ての購入者に付けている。購入後100日間は使用後でも理由は問わず返品が無料。これも購入を後押しした。
この一連の流れが非常に新しい体験だと感じた。これまでなら、友人に口コミを聞いた後は量販店に向かっていただろう。しかし検索し、広告に追いかけられ、何度かのサイト訪問を経て、ユーチューブで使用感を確認し購入する。そして届いたパッケージがしゃれていたので自分自身も交流サイト(SNS)でシェアした。
アウェイはインスタグラムに特に力を入れており、多くのフォロワーを持つインフルエンサーを介して認知される事が多い。テレビや雑誌より細分化された層に届き、影響力も大きい。
前述の通り、これまで実店舗とネットでは、ネットの方が販売のハードルが高いと思っていた。しかしネットは見込み顧客に繰り返しアプローチでき、店舗より何倍もの人にリーチすることができる。SNSを活用すれば、インフルエンサーや一般の人が店員になってくれる。D2Cブランドは新たなチャネルを積極的に活用し、大きく売り上げを伸ばしている。
(スクラムベンチャーズ マーケティングVP)
[日経MJ2017年3月31日付]