「焼きながらお届け」 米で宅配ピザに革命
(三浦茜)
宅配ピザが進化している。テクノロジーによって進化するイメージはあまりないかもしれないが、大手各社は新たな技術を取り入れ始めている。
大手チェーンのドミノピザは、今年はじめからオーストラリア・クイーンズランド州の一部地域で、DRU(ドリュー)という世界初の商業用自動運転デリバリーロボットの運用を始めた。
ドリューにはピザを入れるコンテナと4つのタイヤが付いている。最大時速は20キロ。店舗から半径20キロ以内であればデリバリーできる。
同社は8月にニュージーランドでドローンによる配達も実験。年内の実用化を目指している。ドン・メジ最高経営責任者(CEO)は人工知能(AI)などの導入にも積極的だ。
大手以上にテクノロジーを活用しているベンチャーもある。昨年創業されたZume Pizza(ズームピザ)だ。グーグルのお膝元であるマウンテンビューに拠点を構える。
ウェブサイトや専用の注文アプリを見ると、普通の宅配ピザとなんら変わりはない。「自分の体の一部になるものなのだから、いいものを届けたい」というメッセージがあり、素材にこだわったピザ屋の印象をうける。注文すれば20から30分で家に届く。価格も15~19ドルといたって普通である。
このズームピザが普通でないのは、ロボットがピザを作っているということだ。現時点では生地にソースを塗ったりオーブンに入れたりといった作業を担当。来年3月までに全工程のロボット化を見込んでいる。
ロボットは1台あたり2万から3万5000ドルほど。ロボットの導入により人件費を削減し、その分、高品質な食材を使う。一般的なピザよりカロリーを抑え、健康的なのだそうだ。ピザというとジャンクなイメージがあるので、新しいアプローチである。
この会社ではロボットと人のコラボレーションを「コボット」と呼んでいる。一見、ロボットが人の職を奪っているようにも見えるが、ロボットの導入により危険な作業や単純作業を人間がする必要がない。エンジニアリングやその他の分野で人間が活躍できる。
ズームピザはロボット製造に加え、9月にピザを焼きながら届けるトラックを導入している。
56個のピザ用オーブンを搭載。お届けに12分以上かかるエリアの場合は、全地球測位システム(GPS)で距離を見つつ最適なタイミングで焼きながら届けてくれる。4分前に焼き始めることで、できたてのアツアツが届くのだそうだ。
この「作りながらお届け」の流れはピザだけでなく、さらに加速すると思われる。1時間配送やドローン配送などに挑んできたアマゾンも「作りながらお届け」に取り組みはじめているのだ。
アマゾンは昨年、3Dプリント配達トラックの特許を出願している。注文を受けると、その情報は倉庫ではなく配送トラックに送られる。そしてトラックの中で3Dプリンターを使い、商品を「プリント」しながら届けるのだ。技術革新により最近の3Dプリンターは扱える素材が増え、お菓子や服もプリントできる。
「作りながらお届け」が普及すれば、ピザ屋がキッチンを、通販サイトが倉庫を持たない時代が来るのかもしれない。
(スクラムベンチャーズ マーケティングVP)
〔日経MJ2016年10月21日付〕