編集委員の横尾茜です。
自分にとっては習慣化してしまって意識していないことが、他人にとっては目からウロコのライフハックだった!? なんて激レアなライフハックを探るインタビュー『突撃!隣のライフハック』。
第9回は『海猿』、『ブラックジャックによろしく』で知られ、オンラインコミックサイト『漫画 on Web』を展開しているマンガ家、佐藤秀峰さんに突撃しました。
海上保安官や医師など、全く違う世界を漫画で描いている佐藤さんに、取材しながら逆に取材のコツをお聞きしました!
インタビューは以下から!
ヨ:普段は、どんなサイクルでお仕事されてるんですか? サ:大体は、平日で週5~6日働いてます。昔は、寝てる時間以外はずーっと仕事してたんですけど、休んでもいいんじゃないかなーと思うようになって。25歳でデビューして、最初の5年ぐらいは1日も休みがない生活でした。週刊連載ってすごく忙しくて、休みなく働いても、20ページの漫画を描き上げられるかどうか...なんです。自分が原稿落としたら、たくさんの人に迷惑がかかるし、責任重大。
ずっと「がんばんなきゃー!」と思ってたんですけど、ふと、そもそもおかしい。そんなに働かないと生活できないって、おかしいんじゃないか? と思ったんです。40時間寝ずにぶっ通しで働いたり。
ヨ:寝てる時間以外ずっと仕事してる生活から、週休2日の生活への切り替えって大変ですよね? サ:原稿落としたら大変なことになる! とか、仕事がなくなる! とか思ってたんですけど、原稿落としても雑誌は出るし、仕事もなくならないんですよ。漫画を描かないといけない。書かないとみんなに迷惑がかかる。そういう強迫観念みたいなものがあったんですけど、そもそもそれ自体が無茶なオファーなんじゃないかなって思って、考え方を変えたんです。
ヨ:とはいえ、大変なお仕事だと思うんですが、仕事へのモチベーションって何で維持されてるんですか? 読者の方からの声とか? サ:青年誌はファンレターがこないんですよ。100万部売れてても、2~3通ぐらいです。何を励みにって言われたら、雑誌に毎週載っている漫画家であること、週刊作家であることの誇りですかね。 ヨ:漫画家さんになるのは、小さい頃からの夢だったんですか? サ:漫画家は憧れでした。でも、イメージしてたのと違いますね。漫画家って、一般的にも憧れ系の職業で、ジャパニーズドリーム的なイメージですけど、実際は税金でごっそり持ってかれちゃったりする。100万部売れる人って全体の0.1%もいないのに、100万部売れても中小企業の社長ぐらいの利益なんです。
僕は、もっともっと派手であって欲しいと思う。でも、地味なんです。最近はそれをみんなにちゃんと知ってほしいなと思ってます。「漫画家になりたいなら、若いうちは苦労したほうがいいよ」とか言って、アシスタントに給料払わないとか、そういう若い人の夢を吸って仕事するようなことはしたくない。仕事なので時間を決めて、お金も払ってちゃんとやりましょうよって、当たり前のことですよね。
ヨ:佐藤先生は、海上保安官や医師など、普段の生活とは全く違う世界を漫画で描いてらっしゃると思うんですが、どんな風にして、その職業について調べてるんですか? サ:移植の話を描くと決めた時は、Amazonで移植に関連する本を50冊ぐらい買って、1ヶ月ぐらいかけて読みました。裁判所に医療裁判を傍聴しに行ったりもします。お医者さんに電話やメールで取材することもありますし、移植を受けた方のお花見に参加したり、移植関連のイベントに突撃取材したりもします。とにかく、自分で聞きに行くことにしてます。
ヨ:突撃取材って結構敷居が高いですよね? 知らない方に声かけたりって緊張しませんか? サ:電話しても大体断られます。メールも結構断られますよ(笑)。でも、イベントに直接行って顔を合わせると、たまに協力してくれる人がいる。過去に精神科の話を描いた時は、精神科に体験入院させてもらいました。なかなか体験入院させてくれる病院が見つからなくて、その時は長崎まで行きました。精神科って怖い...みたいな印象があったんですが、3日ぐらいいたら印象も変わりました。実体験って大事ですね。
ヨ:佐藤先生は、Twitterを積極的に活用されてますが、取材で活用したりなんてこともあるんですか? サ:直接取材ではまだないですが、WACOMの液晶タブレットの新製品が出る時期に、買おうか迷っていてつぶやいたら、直接さわらせていただけることになりました。たまに面白いことがありますよね。Twitterでたまにコメントをもらってた堀江さんから、表紙イラストの依頼がきたり。堀江さんは知らない人で、自分の人生と関係ない世界の方なのかなーと思ってたんですけど、話しかけたら答えてくれるし、違う世界でも行動すれば、どこかでつながるんですよね。
ヨ:スランプに陥ったり...ということはありますか? サ:描き方では悩みますが、調べて、描きたいことがたくさんあるので、ネタに困ることはないですね。どの順番で伝えるかは迷いますが、描くことがなくて困ることはないです。逆に描きたいことがたくさんあるので、取捨選択している感じです。テーマにまとまりがなくなってしまうので、おもしろくても描かないようにする。僕の場合は、アイディアをひねりだしてるわけでなくて、調べているので、思いつかないということがない。スランプは二日酔いの時くらいですかね。うつむくのがツライ(笑)。
ヨ:複数の登場人物を描き分ける際に、注意していることってありますか? 男性と女性の違いとか。サ:編集さんは、登場キャラクターの人生をノート1冊分かけ! とか言うんですけど、そんなの無理ですよね。1回もやったことないです(笑)。女の人はわからないので、奥さんに見てもらいます。
なんでもそうですよね。お医者さんのこともわからないし、女の人のこともわからないし、わからないことは調べるし、知ってる人に聞きに行く。
ヨ:いつも自分で取材されてるんですか? 取材のコツなどあれば教えてください!サ:
自分で取材するようになったのは、ここ5~6年です。最初は編集さんにお願いしていたので。ちょうど編集部や出版社にムカついてたんで、自分でできるんだー! ってがんばってた時期なんですよね(笑)。僕はすごい人見知りするし、得意じゃないんですけど、困ったらしょうがなく頑張るんです。やる気次第ですよ。みんな出来ないと思ってるだけで、本当はやればできるんですよ。
ヨ:確かに「やればできる」ってシンプルだけど究極のライフハックですね。
ということで、第9回のインタビューいかがでしたでしょうか?
佐藤先生の行動力すごいですね。わからなかったら聞く! 実際に経験する! というのは、本当にその通りだと思うんですが、いざとなると物怖じしちゃうもの...。でもでも、インタビューを機に、私も色々めんどくさがったり、言い訳したりせずに、自分で行動しようと思いました。
佐藤先生、ためになるインタビューをありがとうございました。では、また次回! 誰かのライフハックを探りに行きます!
(ライフハッカー[日本版]編集委員・横尾茜)