フェイスブックのメッセンジャー、口紅を仮想試着
スクラムベンチャーズ マーケティングVP 三浦茜
電子メールに次ぐ顧客とのコミュニケーションツールはなんだろう。利用者のメール受信ボックスがプロモーションメールであふれかえる中、ネット事業者が頭を悩ませているポイントではないだろうか。日本ではLINEの活用がさかんだと聞く。米国では最近、「フェイスブックメッセンジャー」の取り組みが広がっている。
筆者はメール受信の通知は多すぎるためオフにしているが、メッセンジャーは友人からの連絡が多いためオンにしている。ほぼ即座に反応して内容を確認し、くまなく目を通している。このメッセンジャーについて企業の活用事例をいくつか紹介したい。
ファッション通販エバーレーンをはじめ、通販サイトで購入するとまれにメールではなくメッセンジャー経由で購入完了の連絡や商品発送の連絡が届くことがある。これはフェイスブックが提供するビジネス向けサービス「Facebook Messenger for Business」を活用したものだ。
利用するには審査があるが、基本的に米国の流通サービス会社なら申し込める。会員登録時にフェイスブックの認証を使っているため、企業は既に顧客のフェイスブックアカウントと連携しており、顧客側が新たに何かを設定する必要もない。メールのように埋もれることもなく、パーソナルな空間で顧客とやり取りできるサービスだ。
メールからの置き換えにとどまらず、メッセンジャーで新たな接点を作っているケースもある。ボットを活用した取り組みだ。昨年のフェイスブックの開発者イベントで公開された「Bots for Messenger」。公開から1年あまりがたち、メッセンジャーアプリ内にはボットを紹介するディスカバーというメニューもできている。
化粧品メーカーのエスティローダーはこのボットを活用して、口紅ヴァーチャル試着サービスを提供している。口紅の質感、色味、シチュエーションについてのアンケートにこたえると、リクエストに合う口紅をおすすめしてくれる。自身の写真を送ればその口紅を塗った状態の写真が返送されてくる。気に入ったら通販サイトに移って購入することもできる。顧客との連絡手段としてでなく、接客に活用しているのだ。
クレジットカードのアメックスのボットはカード利用履歴をメッセンジャーに送ってくれる。自身のアメックスアカウントと連携すれば、不審な利用履歴がないか確認できる。またアメックスのカードで飛行機のチケットを購入した場合は、搭乗前にリマインドしてくれたり、旅先でのおすすめレストランを教えてくれたりするようだ。メッセンジャーを活用したコンシェルジュのような立ち位置を目指している。
スーパーマーケットのホールフーズのボットは、材料名を伝えるとレシピを送り返してくれる。ホールフーズで買い物しながら、夕食のメニューを考える際に活用できそうだ。レシピはホールフーズのサイトに以前からあるものだが、ボットによって、顧客のメッセンジャーというプライベートな空間に入り込もうとしているわけだ。
まだまだメッセンジャーのビジネスへの活用は試行錯誤の真っ只中ではあるが、ショッピングに関連するサービスだけでなく、ウォールストリートジャーナルなどのメディア、旅行事業者、英語学習などの教育サービスも活用を始めている。
となると、いずれメッセンジャーがメールのようになってしまい、その中で埋もれるのでは…という気もしないでもない。しかしながら、米国のサービスが新たなツールを活用し顧客接点の拡大を模索し続ける姿は、とても興味深い。今のところ筆者は、ニュース、天気予報、生理日予測といったメッセンジャーボットが役立っている。
[日経MJ2017年9月22日付]