米のユニクロ、ITで客を呼ぶ4つの仕掛け
(三浦茜)
アメリカ西海岸1号店として2012年にオープンしたユニクロのユニオンスクエア店は、サンフランシスコのダウンタウンの中心に位置している。地元の人だけでなく観光客も多く、いつもにぎわっている。この店舗に今、IT(情報技術)を使った4つの仕掛けがある。
1つ目は米メモミ社が提供する「メモリーミラー」だ。記憶する鏡という名前の通り、鏡の上部にカメラがついており、試着の様子を動画として保存してくれる。この鏡、例えばダウンジャケットを着て鏡の前に立つと、ダウンの色が自動的に変わる。
筆者は赤いダウンを着ているはずなのに、鏡にうつる姿は黒、紺、茶、オレンジと変化した。ダウンやフリースなどカラーバリエーションが豊富なユニクロにはピッタリの機能ではないだろうか。
録画された試着の様子は、その鏡で再生できる。録画なので後ろ姿などもしっかり見られる。また、試着の様子をメールアドレスかショートメールを使って自分宛に送ることも可能だ。迷ったときには交流サイト(SNS)でシェアして友達の意見を聞いたり、家に帰って動画を見直してじっくり考えたりできる。
2つ目はタブレット型のコンシェルジェだ。サイズ違いや色違いを確認したい時、意外と店員が見つからないもの。また観光客にとっては英語でのコミュニケーションがハードルとなることもあるだろう。
この店舗にはそんな時に役に立つタブレットが2台設置されている。気になっている商品のタグをタブレットのカメラでスキャンすると、色違いやサイズ違いが表示される。
店舗に在庫がある場合は、店員を呼ぶボタンが表示される。在庫がない場合はその場でウェブサイトから注文することができる。またはその商品のリンクを自分のメールアドレスに送ることが可能だ。店舗になかったおわびとして5ドルのクーポンがついている。
3つ目はスマートフォンの充電ステーションと、店内Wi-Fi。いずれも無料だ。観光客にとってはうれしいサービスだろう。ステーションがあるとわかっていれば、充電目的での来店も出てくる。充電している間、いつもよりじっくり店内を見てしまいそうだ。
最後はちょっと不思議なキャラクター作成マシン「UMOJI」。銀行のATMほどのサイズで、写真を撮影して髪形、肌の色、目の色を選ぶと自分のキャラクターを作ってくれる。
その場で写真のようにプリントされ、自分のメールアドレスに送ることもできる。似ているかというと微妙な感じだったが、子どもが喜びそうである。
こういった取り組みはユニクロでもまだ一部店舗のみ。ユニオンスクエア店は店内にデジタルサイネージ(電子看板)が導入されていたり、他の店舗より先進的な試みが行われている。
ユニクロはこういったサービスを通じて顧客のメールアドレスを取得している。そして店舗だけでない、継続的な接点作りにつなげている。
これまで店舗は商品を見て、選び、購入する場所だったが、その役割が変わりつつあることを感じた。誰もがスマホを持つ時代、どこでも買い物ができる。店舗での販売にこだわる必要はなく、適切なタイミングでウェブサイトからの購入を促せばよい。店舗のあり方は大きく変化している。
(スクラムベンチャーズ マーケティングVP)
〔日経MJ2016年8月26日付〕